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About ARENA-PAC

Arterial Research and Educational Network (ARENA-PAC)は、アジア太平洋地域でのインターネットの普及を目的に敷設された国際海底ケーブルネットワークで、研究・教育のための広帯域バックボーンネットワークです。ARENA-PACは、APIDT(Asia Pacific Internet Development Trust)のプロジェクトであり、APNIC(Asia Pacific Network Information Centre)の支援のもと、WIDE Projectによって運用されています。

WIDEプロジェクトは、長年にわたり日本およびアジア太平洋地域でのインターネット運用を担ってきました。ここでは、WIDEプロジェクトによるインターネット運用の歴史から、ARENA-PACが誕生するまでをご紹介します。


日本における国際接続の始まり

日本のインターネットの起こりは1984年に開始したダイアルアップベースのJUNETに遡る。このJUNETの 研究グループが元となって生まれたWIDE Projectは、リアルタイムにパケット交換をする、大規模で広域に渡る分散処理環境の研究を目指してスタートした。  

プロジェクトの初期の課題は、グローバル空間を実現するネットワークの国際接続であった。コストやリソース問題を産学の協力を得て解決し、ようやく 1989年に敷設されたハワイ経由のデジタル同軸回線海底ケーブルTPC3の総容量は280Mbpsで、これを用いて64Kbpsのインターネット接続を実現したのが日米国際接続の始まりである。

APNICとWIDE Project

WIDE Projectは、シンクタンクSRIに拠点を置いていたSRI-NIC(Network Information  Center)を通じて、番号や名前の資源の分散管理に関する世界で初めての分散型NICの実験運用を行う。これにより言語やルールの多様性がインターネットの運用にも導入されることとなった。  

日本での分散資源管理は、この頃東京大学に在籍していたWIDE Project創設者・村井純の研究室でプロジェクトの運用の一環として行われ、やがてJPNICとして法人化し、順調な成果を上げた。 さらに、このJPNICの運用モデルをアジア太平洋全体に広げるため、各国を結ぶ上位機構としてAPNICを東京に設立した。その後APNICは法人化を目指し、域内での外国人雇用や非営利団体関連の法規の調査を行い、 その結果オーストラリアでの法人化となった。

「ARENA-PAC」アジア太平洋地域における新たな取り組み

以降、アジア太平洋地域のインターネットは関係各国の産業・学術領域を巻き込みながら相互接続を進め、今日に至るまで発展を遂げてきた。WIDE Projectも、東南アジア諸国の大学を結ぶAI3プロジェクト、米国ワシントン大学を拠点とするPacific Wave、ハワイ大学を拠点としたPIRENプロジェクト、グアムの 交換拠点GOREXなどと関わり、太平洋のネットワーク網構築に携わってきた。そして2020年に誕生したのが ARENA-PACである。

ARENA-PACは、長期使用契約された海底ケーブル網に加え、他の研究教育ネットワークとの相互接続などにより、ARENA-PACの名前が示すようにアジア太平洋地域に広がる「動脈(Artery)」とも言える広域大容量バックボーンネットワークを目指している。当初は100 Gbpsの通信帯域をベースに計画されるが、将来は回線増強や他の研究教育ネットワークとの連携・相互接続により200 Gbpsや400 Gbpsといったさらなる大容量のバックボーンネットワークへと拡張されていくことも期待される。


Mission

ARENA-PACは当面、次の3つの使命を果たしていく。

  1. AI³などのパートナーを中心とした域内インフラの発展を目指す。
  2. GOREXへの参加により、米国と新しい太平洋トポロジーの運用と発展を推進する。
  3. アジア太平洋地域が他の地域とグローバルに接続するためのAsia Pacific Rimへの使命。

ARENA-PACの役割

ARENA-PAC は、アジア太平洋地域のトポロジ、他地域とグローバルに接続するための戦略と発展を推進していく役割を担う。

ヨーロッパとの接続を見ると、現在EUとアジア太平洋の接続は南回りとロシア経由の2つがある。南回りはシンガポールや香港を拠点として、EUの各国と接続されており、これのコーディネーションを担っているのがTEINのASI@NETである。一方、NIIによるロシア越しの陸上ケーブルを用いた回線があり、これはEUとの最短距離となるが、陸路であるため価格や保守などの課題もある。これに加えて、北欧のRENであるNORDUnetは、北極海に敷設されるCINIAの海底ケーブルを用いた、日本やアメリカへの全く新しい経路を模索している。このようにグローバルなネットワークの接続はダイナミックに動いている。

また、2020年7月には、チリとオーストラリアをつなぐケーブルの計画に、日本企業を含めたコンソーシアムが採択されたという報道があった。この際の競合の候補は、中国ファーウェイ・マリーン社でその陸揚げ対地は上海だったと言われている。採択が決定すると、陸揚げはニュージーランドのオークランドかシドニーとなり、JGAを介した日本との接続性が確保できる。チリには、国立天文台のアルマ望遠鏡が標高5千メートルのアタカマ砂漠にあり、66台からなる集合型の電波望遠鏡の心臓部も日本のスーパーコンピュータ技術が担っている。光ファイバーのネットワークは、加盟している22カ国をはじめとする世界の天文・宇宙科学者が参加できる研究基盤の重要な動脈となる。

このように、どことどこがつながるのか、新しい接続はどのように完成するのかがより重要となってきており、ARENA-PACはその最適なトポロジの構築に動脈となるべく貢献していく役割を持っている。さらに、WIDE ProjectがAI3/SOI-Asiaプロジェクトで長年経験を培ってきた非地上系通信との相互運用を実現する技術開発を進めることで、さらに安定したアジア太平洋地域での国際研究教育ネットワークの構築と、グローバルなインターネット発展に貢献していく。