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2021年度ARENA-PAC報告書

本レポートは2021年度WIDEプロジェクト報告書からの抜粋です。

1. はじめに

本稿では、アジア太平洋地域の研究教育目的広帯域バックボーンネットワークであるARENA-PAC(Arterial Research and Educational Network in Asia-Pacific)の運用について報告する。

ARENA-PACは、アジア太平洋地域のインターネットの発展のための基金であるAsia Pacific Internet Development Trust(APIDT)により長期使用契約された海底ケーブル網による研究教育目的の広帯域バックボーンネットワークであり、WIDE Projectがその運用を担当している。

ARENA-PACは、APIDTにより長期使用契約された海底ケーブル網に加えて、他の研究教育ネットワークとの相互接続などにより、ARENA-PACの名前が示すようにアジア太平洋地域に広がる「動脈(Artery)」とも言える広域大容量バックボーンネットワークを目指している。

本稿では、2021年2月に運用を開始した東京-グアム間の100 Gbpsの通信帯域の回線をはじめ、現在の運用状況および今後の拡張計画、国際的な連携協力について報告する。

2. ARENA-PACの運用状況および拡張計画

2022年1月末時点では、ARENA-PACは以下の2回線を運用している。

Figure1: Concept of ARENA-PAC backbone network
  • 東京-グアム100 Gbps回線
  • グアム-シンガポール100 Gbps回線(Guam-SG Connectivity Consortium: ARENA-PAC、AARNet、Internet2、IN@ IUのコンソーシアムによる共同回線)

また、2022年には、以下の2回線の運用開始を目指して準備を進めている。

  • グアム-マラン(インドネシア)100 Gbps回線
  • グアム-ケソン(フィリピン)10 Gbps回線

さらに、衛星通信技術を用いたアジア太平洋地域への教育コンテンツ配信や災害時のインターネットアクセス技術を開発・運用・提供してきたAI3/SOI-ASIAプロジェクトとの連携により、東ティモール国立大学へのインターネット接続とオーバーレイネットワークによるRENへの接続準備を進めている。

図1に、これらの運用開始済みの回線および今後の拡張計画をARENA-PACのバックボーンネットワーク構想としてまとめた。この図に示すように、ARENA-PACはアジア太平洋地域に研究教育目的の広帯域バックボーンネットワークを構築し、他の研究教育ネットワーク運用組織との相互接続・連携により、国際的な研究教育活動を支援していく計画である。

以下に、運用を開始した東京-グアムおよびグアム-シンガポールの回線について具体的に報告する。

2.1 東京-グアム回線の開通と運用開始

2021年2月1日 に 東 京-グ ア ム 間 の100 Gbpsの 高 速 回線が開通し、運用を開始した。同時に、ARENA-PACでは、AS(AS141682)の運用も開始した。東京側はJuniperMX204をWIDE Project NTT大 手 町NOC内 に 設 置 し、WIDE Project(AS2500)、SINET(AS2907)、GXP-Tokyo(APAN-JP、AS7660)との相互接続を行っている。グアム側は、世界的な半導体需給逼迫と渡航制限のため、グアムにはARENA-PACの設備(ルータやスイッチ)は設置できておらず、Guam Open Research and Education eXchange(GOREX)の協力を得て、GOREXの設備(ルータ)により直接回線を収容し、東京側の設備とGOREX(AS35889)との間で相互接続を行っている。また、GOREXを通じて、University of Hawaii、UoG、AARNet、SingAREN、REANNZ、TransPACの経路も交換している。この東京-グアム回線の開通および運用開始により、従来は国立天文台ハワイ観測所からWIDEへの経路は、Hawaii-Seattle-Tokyoとアメリカ合衆国西海岸を経由しており、171msのRound Trip Time(RTT)があったが、開通後はHawaii-Guam-Tokyoの経路が利用できるようになり、96msのRTTと大幅に遅延が改善した。その他の事例や接続組織においてもグアムを拠点としたネットワークをより適切に活用するには、経路制御技術により遅延を最小化した上で十分な帯域を確保するような経路の最適化が必要である。そのため、今後は接続組織との連携により、経路最適化を随時行っていく予定である。

2.2 グアム-シンガポール回線の開通と迂回路

前述のとおり、グアム-シンガポール回線は、ARENA-PAC、AARNet、Internet2、IN@IU(インディアナ大学)の4組織によるコンソーシアム共同回線である。グアム側はGOREX、シンガポール側はSingaRENの設備でそれぞれ収容している。本回線は2021年12月に開通予定であったが、海底ケーブル切断および修復工事のために延期され、2022年1月20日に回線の受け入れが完了し、運用を開始した。

なお、JGNの東京-シンガポール回線の一部が2021年12月8日より工事予定であったため、2021年12月6日に一度本回線が開通した際に、ARENA-PACの東京-グアム回線と本回線を併せてバックアップ経路として設定し、8日の時点では正常にバックアップとして機能した。しかし、その後同月9日に本回線が切断された。その後、AARNetの協力により、グアム-オーストラリア-シンガポールの迂回路を設定することで、アメリカ合衆国西海岸を経由する経路よりも短い経路で東京-シンガポール間の接続を維持することができた。

3. APOnetへの参画

2021年6月17日にARENA-PACは、以下の11研究教育ネットワーク組織間によるアジア太平洋・オセアニア地域における高速ネットワークの整備に関する協力体制であるAsia Pacific Oceania network(APOnet)への設立・参画に合意した。

● Australia’s Academic and Research Network(AARNet)

● Arterial Research and Educational Network in Asia-Pacific(ARENA-PAC)

● University Corporation for Advanced Internet Development d/b/a(Internet2)

● Korea Institute of Science and Technology Information(KISTI)

● National Institute of Information and Communications Technology(NICT)

● National Institute of Informatics(NII)

● Pacific Wave International Exchange

● Research and Education Advanced Network New Zealand(REANNZ)

● Singapore Advanced Research and Education Network (SingAREN)

● TransPAC

● University of Hawaii(UH)

APOnetは、専門家の交流、運用データや科学実験設備の共同利用を通じた国際的な協力により、学際的な研究教育活動や科学的探求・発見を支援することを目的としている。例えば、センサーや科学実験設備の高解像度化、Event Horizon Telescope(EHT)のような地球規模の望遠鏡に代表される超高解像度画像・映像撮影装置などの実験データは、前例にないほど大容量であり、APOnetではこのような国際的なデータ転送を組織間の協力により支援する。

また、ネットワークが研究教育活動の基盤として重要視される中で、ネットワーク切断時へのバックアップ接続性および帯域を適切に提供することも重要である。APOnetは組織間の協力体制により、最先端の技術や経路制御に関する知見、運用データの共有などを通じて、信頼性や可用性を向上する運用活動も行っていく。なお、前述の、新設されたグアム-シンガポール線による相互バックアップもこの連携により実現した。WIDE ProjectはARENA-PACの運用者として、技術的な知見共有やネットワーク運用活動を通じてAPOnetの目的実現に向けた貢献および国際的な研究教育活動への貢献を継続して行っていく予定である。

4. まとめ

本稿ではアジア太平洋地域の研究教育目的広帯域バックボーンであるARENA-PACの運用について報告した。WIDE Projectは今後もARENA-PACの運用やAPOnetとの連携を通じて国際的なインターネットの発展に継続して貢献していく予定である。

Excerpts from the WIDE Project Report 2021